非効率的な道のり

 角の古びた定食屋が気になり、どういうものがあるのかと道を横切ろうとして、また足を捻った。どうしてこうも、ただ歩いているだけなのに足を挫くのだろう。ついこの前の捻挫も治りきっていないというのに。また、痛みがぶり返してしまった。幸い迷走神経反射(仮)は出なかった。前回とは違い、昼下がりの、歩行者の往来の激しい場所だ。ここで倒れていられない。

 結局、その定食屋で昼飯を食べるのはやめた。まずはこの街から出たいということを考えていた。

 当初の予定からだいぶずれてしまい、ずいぶん遅い昼食になる。食べたいもの。特になかった。強いて言えばステーキかな。とにかく空腹で、それに伴い思考がかなり迷走している自覚があった。とりあえず何か食べて落ち着かなければ。

 そんなことを考えていると、降りたかった駅を過ぎてしまった。過ぎてもなんとかなるが、非効率なルートになる。お金も余計にかかる。反対方向の電車に乗ろうとは夢にも思わなかった。

 行きたかった洋食屋の最寄駅に着いたので、たまらず下車した。下車して改めて調べると、その店は営業時間外であることを知った。なんとまあ、空腹(そしてそこに至る疲労)によって、かなり無駄な行動をしてしまっている。いや、私はそもそも効率を追求するタイプでは決して無いのでは。戦略的に人生を設定するならば、私は今こんなことにはなっていない。

 足は痛む。歩けなくはないが、いつものように長い時間歩く気分ではない。書店に寄って文房具と本を見て、店を出ると通りの向かいに狭い狭いカレー屋があることに気づいた。カレーを食べるか。若干の博打にはなるが(好きなカレーと大して好きではないカレーがある)。

 そう。今日の私は、なんとなく個人が商う店に行きたい気分だった。画一的なサービスを提供するチェーン店に行く気分にはなれなかった。だから間口がとても狭いその店に入ることにした。

 ロースカツカレーにした。おすすめ!という印があったからだ。客は私一人のようだった。

 カツを一から揚げているのだろう。厨房から「カラカラ」という気持ちのいい音が聞こえた。どうしてか「大変なことになったぞ」と思った。全然揚げなくていいです、私の為にカツを揚げるなど、しなくていいです、という気持ち。

 そしてロースカツカレーがやってきて私はそれを食べた。カツがおいしかったな。ちょうどいいサイズで食べやすい。脂身とそうでないところのバランスもいい。カレーを邪魔しない。千切りキャベツも嬉しい。でも、あいにくカレーのスタイルは私の好むものではなかった。カレーというのは実に奥深くどきどきする食べ物だ。

 カレーを食べながら、自分の迷走っぷりを考えていた。自分やその周縁にあるものを引いてみることができてなかったかもしれない。夢中になると視野が狭くなるように思う。私は、私が何をしてきたのかとか、そのとき世界はどうだったのかとか、そういうことを留めておきたいと思うのに。

 満腹になった。カレーを平らげたので、厨房の方に一声「ごちそうさまです」と声をかけると、店主がそれに対して何か返した。何と言っていたかは覚えてない。

 ふわふわとした気分で電車に運ばれた。気がつくと乗り換えの駅に着いていた。最短ルートではないが、どうにかここまで来れで良かった。そうして乗り換えようとしたとき、駅の中の小さな本屋に立ち寄った。買いたい本がないか確認する為に、だった。どの店にもなくて、実店舗で買うならこれはもう取り寄せるしかないかなと思っていたら、なんと、一冊だけあった。本棚の背表紙を左から右へ、下段に移してまた左から右へと視線を動かして、ほぼ諦めていた中でその書名を認め、私はたじろいだ。ここにあるのか、お前は。

 茹でたじゃがいも並みにほくほくした気持ちで私は無人レジでお会計をする。今日はここに至るまでの道でだいぶぐらぐらとしてしまっただが、踏み止まれているかもしれない。読みかけの本が2冊入ったカバンに、買った本を入れ、私を運んでくれる電車を待つ。