沼の底

 私はただ一人、沼の底を歩いていた。

 履き慣れたスニーカーが沼底の砂を捉える感覚が、足を通して肺の方まで伝わってくる。前に出した足にぐっと力を込める。わずかばかり砂に沈み込む。沈み切ったところで爪先で砂を弾く。そうして体を前に押し出す。体が前に運ばれていく。

 息苦しさは感じなかった。ただ、世界を満たす水が不透明でジェルのようだったことが気になった。どろりとしていて冷たい。肌からするすると体の奥底に入り込み心臓をぎゅっと掴む。痛いけれど、気持ちがいい。呼気が泡となり耳の近くを通って浮上していく。上を見上げるとちろちろと青い光が揺らめいていた。泡が光の中に吸い込まれていった。

 この世界で唯一あたたかいのは私。

 私はただ一人、沼の底を歩いていた。