桜の枝と夜の雲

 土が踏み固められた遊歩道に沿う形で桜の木が立ち並んでいる。

 半年近く前は淡いピンクの花が咲き乱れていた道は、これから少しずつスウスウとしていくだろう。葉が一枚、また一枚と散っていき、寒風がどこかに連れ去ってしまう。

 桜の木の根元に枝が落ちていた。直径7cmほど、長さにして45cm。十中八九、桜の枝だ。なんてことない枝だが、私はその枝に魅入られる。とても、とても、枝だ。枝としての存在感がある、丁度いい枝だ。枝モデル選手権があったらきっと優秀賞をもらえる、そういう枝だ。

 立ち止まったままでいるわけにもいかないので私は再び歩き始める。じーっと枝を見つめながら、名残惜しいがお別れだった。

 

 陽が沈むのが早い。外に出た時、ほぼ陽は沈んでいた。濃い紺色の空に灰の雲がぷかぷかと浮かんでいる。それがとても綺麗だったので、私はカメラを取り出すと一枚、また一枚とシャッターを切る。ストロボを焚いたらこの色は撮れないような気がして、ディスプレイの警告を無視してピントがぼやけるのも仕方がない、何枚か写真を撮った。

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 なんてことない他人の言葉で傷つくことってあるのよね、と思った。だから私も、誰かを傷つけているのだろうな、と思った。