いいこと

 O(1歳と半年ぐらいか)が突如「あんぱんまん」という単語をおぼえ、小声で「あんぱんまんあんぱんまんあんぱんまん」と呟く様は、呪文のように聞こえなくもない。多分、破裂音も含め唱えるのが楽しいのだろうと思う。なお、傍目ではどうもアンパンマンばいきんまんを区別していないような気がする。それどころか、アンパンマンと彼を取り巻く様々なキャラクターたち、あの世界をひっくるめて「あんぱんまん」と捉えているような。子どもを見ているのはいい。本当に、いい。子どもが好きだとか嫌いだとかという次元のものではなく、例えば山とか海を好きだ嫌いだとはあんまり言わないだろう。山は山で、海は海で、山に行くことは好きだし、海を見るのも好きなように、Oと会うのも好きだが、Oそのものについては、好きだとか嫌いだとかの次元を超える。それを超えた、もう既に存在する未知のもの。

 おうおう、そうか、アンパンマンか、じゃあ横浜のアンパンマンミュージアムにもいつか行かないとな、という話をすると、それなりにブランドのあるキャラクターの施設だからか「結構高いのよ」という話だった。何がどう高いのかは人による部分もあると思うが、相場がわからない。

 8月の12日から体調を崩していた。発熱と寒気と関節痛、筋肉痛が主で、熱による頭痛に加え腹の調子まで悪くなると来た。調子の悪さのフルコース。ただ、普段の風邪でよく見られる咳やのどの痛み、鼻水が見られなかったので、なんだかずっと不気味だった。簡易抗原検査は、新型コロナとインフルエンザ共に陰性だったし、喉の痛みと咳がないのはどちらかと言えばインフルエンザだろうと思っていたから、よくわからないままとりあえず生きた。

 よくありがちな物言いで表現するならば「あなた疲れていたのよ」かもしれなかった。トリプルパンチだ。父のこと、伯父のこと、そして仕事の内容が最近変わって、新しいことをやらなければならないこと。三重苦。一人ずつかかってきなさい、と言いたいのだが、こればかりは仕方がない。体調が悪いときは思考に割けるエネルギーも限られているから、結局それら三銃士の問題はさほど考えられなかったし、ただただ体調を崩し、その分の時間と体力が奪われ、また心機一転、始まりそう、といった感じだ。部屋も随分散らかっているし、運動もしていない。食べることへの執着も自分史史上限りなく弱くなっている。

 Oに関連して、アンパンマンの「アンパンマンたいそう」という曲が沁みるという話をしたい。最初の方で「もし自信をなくしてくじけそうになったら いいことだけ いいことだけ 思い出せ」ということを歌う。沁みる。そうだよなあと思う。知っている。でも時々それを忘れるのだ。すぐに思い出すけども、本当に一瞬、見失ったりする。

 なので、だいぶ調子が良くなって物を考えられる余裕が出てきたのだ、いいことも考えよう。