よくふってから

 「よくふってからお飲みください」とラベルに書かれていた生茶を、よくふらずに8割ぐらい飲んで、少し落ち込む。そんなの見ないって。

 貯金した小銭を少しずつ減らす為に、散歩の道中にたまにペットボトルの飲料を飲もうと思って110円で生茶を売ってくれる自販機を見つけた。朝の散歩でその日初めてまともな水分を取る。危ないなと思いながら。すごく喉が渇いていた。朝起きて一番に水を飲めばよかったのにそうしない私が悪かった。

 よく見ないってば。これ、仕事をしながらも自他問わずぶつかる問題で、人間、案外文章を読めていない。

 説明書をたっぷり読む人と、読まずに作業しながら進める人で人間を二分するならば、私は圧倒的後者で、その不利益も承知しているから、「読め」と言われた資料を読む際はなるべくそういう自分の性質を意識して読むのだけれども、生茶のラベルは読まないって。

 生茶にできることは、ラベルに「よくふってからお飲みください」と印字すること、あとは、CMでうまい具合に情報を差し込むことぐらいじゃないか。コマーシャルなのに注意書きを入れないといけないのも、なんか少しだけ悲しい。宣伝は生粋の宣伝である方がいい。だから結論としては「よくふってからお飲みください」という風にしている生茶自身で、過ちというほどの大問題ではないにせよ、よくふったほうがいいのは、そりゃあ、お茶のおいしいところが時間がたつにつれ沈殿するならばよくふったほうがよくて、じゃあ、ペットボトルで売るというのが、もう駄目なのか。わからなくなってきた。もちろん、振らないまま飲んだって生茶は十分おいしいです。

 後の祭りだが、残り2割の生茶を私はじゃかじゃか振って、飲み切った。お茶を振って飲む文化は、自分の中にあんまりない。