メモランダム vol.9

鈍る

長い休みの前のプールはいつもより人が多く、私は500m泳いだところで切り上げた。

昔々、少しでも泳げない日ができると(例えばテスト期間中)私たちは「体が鈍る(なまる)ね」と言い合った。休み明け、水をかくとすごく軽い感じがして嫌だと言った。あれから10年近く経った今、私は何週間泳いでなかったのか。

節電の為、細かい泡を出すのをやめてしまったジャグジーに入る(それは普通の風呂だ)。チャプチャプとお湯と戯れる。足の甲で水をけり上げる。自在に再現できない形でお湯ははね上がり、やがて大きなまとまりの中にトポンと消えてしまった。飛沫ひとつ意識しないとどこかに行ってしまうような気がして、私はそれが嫌になる。どこかに行かないでほしいと思う。

一日があっという間に過ぎ去っていく。風に溶けていくそれらをできる限りかき集め、私は文章を書きたいと思っている。常に。

 

喋る人

仕事をしている空間でずっと喋っている人がいて「なんだこれは」と思っている。ずっと喋ってもらって結構、私の「なんだこれ」ポイントは「ずっと喋ることができる」ということだった。

私は少なくとも寡黙なタイプではない。喋ることに事欠かないし、多分話を振られればそこそこ長く喋ることができると思っている(内容は面白くないだろうけど)。ただ、喋るのが好きかとそんなことはなく、かといって人の話を聞くのが好きなのかというとそれも自信を持ってyesとは言えず、できることなら喋らずに済めばいいなと思う。喋りたいことを喋ることができればいい。喋る必要も感じてないし、どちらかといえば静かに穏やかに過ごしたい。

とにかくずっと喋っていたので、ああ、この人喋ることが体に合っている人なのだなと感心しながら盗み聞きした。

 

タトゥー

その人は白くて長いワンピースを着ていた。軽くてとても涼しそうな素材だ。ざっくりとあいた背中側、首のすぐ下の部分に名の知らぬ花が刻まれていた。花弁は赤く、葉は緑。とても綺麗なタトゥーだと思った。

タトゥーを入れればプールで泳げない。ただそれだけの理由でタトゥーは選択肢に入らないが、仮にプールに入れますよとなったら私はタトゥーを入れるかと聞かれたらそれはわからなかった。刻みたい言葉、あるいはモチーフが浮かんでこないからだ。ただ白いワンピースの人のタトゥーはとても綺麗なタトゥーだったので、ああいうものだったら入れてみたいなと思った。脇腹とかに入れれば水着で隠せるのでは?とか思っちゃうけど、どうせ入れるなら見せびらかしたいよね、と思う。タトゥー、気になる。