ジョグ vol.8

 いよいよ半袖で走れる季節になった。しばらく—9月いっぱいぐらいまでは—このまま肘から手先まで布がない服で走れるだろう。私は長袖がおそらくあまり好きではない。

 5月15日の夜は半袖で出歩くには少し肌寒い。それでもゆっくり走り始めれば体が温まっていき、走り終える頃には額に汗が滲む。むずかしい季節だ。儚く壊れやすく扱いづらい夜。

 いっそものすごく暑ければいいのに。真夏のように25℃以上の熱帯夜であれば割り切って私は走るだろう。最初から最後まで暑い。それだけ。なのにこの季節ときたら、走り終えてクールダウンの為にとぼとぼ歩くものなら、途端に汗が冷えて寒さが背中や二の腕をぞわぞわと這っていくのだ。帰る頃には体がかたまってしまう。

 何も期待しないジョグは気楽で楽しい。

 走っている最中に無性に階段をのぼりたくなってルートを少し変えて歩道橋を渡る。階段をのぼりたいだなんてどうしたのだろう。少し疲れているのかもしれない。自分が自覚できていないだけで。疲労のサインとして、甘いもの(特にクレープ)が恋しくなったら、それは疲れているということにしようと決めているけれど、階段をのぼりたくなったら、何か思うところがあるのかもしれない。導火線に火が点いてしまった、とか? でも、心当たりはないな。

 歩道橋というのは車道という車の川を渡る橋だ。車は敏捷な海洋生物。

 走ったことでからだの中はたっぷり水で満たされた。また気が向いたときに走ろう。一回一回のジョグを大切にしたい。