メモランダム vol.3

スタートの総量

 4月1日というのはスタートの総量が他の日と比べ物にならないくらい多そうで、桜を見ながら私はげんなりする。この世界において「始まり」というものがあるとして、それを365日(場合によっては366日)で割ってくれればこれほど大きなエネルギーにもなるまいに、4月1日に役を背負わせすぎだと思ってしまう。でもそれは「日本」的な感覚であり、多分私が思っているより世界全体のスタートの総量はばら撒かれている。わかってはいるけど桜まで満開ときたものだから勘弁してくれと思う。

 

チャイナブルー

 私の飲める酒はすくない。炭酸が入っているか入ってないかがとても重要で、消去法で酒を選ばねばならんとはまったく悲しいことではないか!と憤り、瞬時に思い直す。主体的に選べばいいだけの話じゃないか。飲んだことのないお酒を飲みたかった。だから私はチャイナブルーというカクテルを頼むことにした。

 やってきたチャイナブルーは淡い青色をしていて、赤色のストローがよく映えていた。食べ物で青色というと食欲を減退させるだとか言われてしまう。しかしお酒ならいくらでも青くていいと思う。南の島の海の色。「チャイナ」という言葉から私は赤を思い浮かべるので何故チャイナでブルーなんだと思ったが、調べてみると景徳鎮の陶磁器の色由来らしい。ほんとかいな。

 味としては、ただのグレープフルーツジュースだね以上、だったけど、それが良かった。甘ったるくなくて口の中がべたべたしなくてその時のモードによく合っていた。私は解釈と想像という力で何でも「正解」にしてしまえる。それは生きている上でとても楽しいことだけれど、何でも正解にする力は暴力とも言えるから、怖いなあと思いながら日々使っている。その力で以てチャイナブルーを頼んだことも「正解」にする。

 

400m

 年度末であり月末週だからか、その日のプールはレッスンがなく利用者も少なかった。みんな飲みに行ってるのだろうか、成人の利用者もいない。なのでプールはほぼ貸し切り状態だ。嬉しくなったので、ぺたぺたとプールサイドを進む足も心なしかはやくなる。滑らないように慎重に、だけどわくわくして。

 最近、400mという距離について考えている。50mを8本、100mだと4本、200mだと2本。陸上競技場のトラック一周分だと考えると大した距離ではないように思ってしまう。

 泳ぐ際に400mという距離をどう捉えるのかというのは難しいところだ。私の場合は200m×2本だと思っている。前半の200mを泳いで「あー、後半だー」と思う距離。この「あー、後半だー」という感覚にはある種の重たさがあって、私はそれが好きだ。なんだろう、旅行した帰り道みたいな感じ。充足感と「まだ旅は終わってないぜ」感がある。ただ、競技として泳ぐなら400mという距離は吐きそうになるから私はやりたくない。その点200mは起承転結、という気がする。200mなら私は100mから150mの区間が好きだ。150mから200mの区間はどうしても惰性になってしまう。今なら200mがいちばん私に合っている距離だなと思うけれど、当時はそんなこと考えられなかったし、水泳の練習はしんどい。もしタイムスリップができるなら私は200mを泳ぐことを選ぶ人間になっただろう。

 

もやし

 作りたい料理があるのだ。たくさんのもやしを使おうと買ったところまでは良かったが、疲れていたのでリュックに入れたまま私は布団に寝っ転がって寝落ちしてしまった。翌朝、たっぷりと目が覚める。そしてもやしの存在を思い出す。要冷蔵と書いているけれど一晩常温で放置してしまって大丈夫かしらと、リュックを開けることができない。パンドラの箱シュレーディンガーの猫。事なかれ主義。そう、私は食べ物を腐らせるのがだいぶ嫌いなのよね、ということも思い出した。大丈夫。真夏ではないのだから食べられるはず。