ジョグ vol.4

 ジョグ。雪の降らないこの町は、走るのにぴったりの季節を迎える。

 雨も上がり、路面は黒々と濡れそぼる。乾いているときより街灯の光が柔らかなように思えるのは錯覚だろう、しかし、雨上がりの夜の町を走るのは楽しい。

 「頭が良くなりてえな」と、私は走りながら心の中で独り言つ。少年漫画の主人公が歯を食いしばりながら言う「強くなりたい」と似ていたら嬉しかった。知は力なり。私はおそらくその立場に立つのだろうけれど、一体この考えがどこからやってきたのか、わかりかねた。

 「頭が良く」なればすべてがうまくいくと思ったら大間違いで、多分私は「知性は力なり」教の信者なのだろう。今まで何か特定の宗教を信仰してきたつもりはないが、足元掬われたな、信じているじゃないか。

 救われたい、楽になりたい、でも楽になることなどない。そういうやじろべえ状態を普段は意識しなくていいのだけれど、ふとした瞬間に意識下に浮上してきてそれがつらく感じる。ええい、忘れろ忘れろ!ということで、寝たら多分忘れるだろう。

 

 頭が良くなりたいという話はさておき、ジョグは充足感たっぷりで安心する。相変わらずとろとろとゆっくり走っているが(全然速くならない)それなりに楽しい。

 「走ることは楽しい」それだけ言えればよかった。頭が良くなりたい。それは結果論だ。結果論で話すこと、自分には向いていないと感じる。それならば日々の行動が巡り巡ってずっと先の未来の「頭の良さ」につながっていればいい。そもそも頭の良さって何だという話なのだが。