オレンジジュース

スーパーの片隅に奴はいた。ひっそりと、ではない、だいぶ存在を主張して。しかしきちんとスーパーという空間に馴染んでいた奴。果汁100%のオレンジジュースの機械。

その日その時の私は、色々あってイレギュラーな心持ちで、普段行くことのないスーパーに立ち寄ったのもイレギュラーのせいだし、一杯350円のジュースを飲んでみようかというのもまったくイレギュラー。そしてそのイレギュラーを存分に味わってやろうじゃないかという野心もまた、普段とは少し違うところ。

100円を3枚と50円玉1枚を入れると、有無を言わさず奴はガタガタと動き出した。スタートボタンがない。お金を入れたらすなわち契約締結という潔さ。自動販売機というのは選択しなければならないからそりゃそうなのだけど、「あなたはこれを買いますか?」と最終通告してくれる親切さを持ち合わせているのだと、私はこのオレンジジュース自販機と出会って気づかされる。

オレンジ4個分の果汁。すぐに受取口が開き、ビニルで密閉された紙コップが出てきた。ストローは、どうやらないらしい。

飲みながら散歩を再開しようと思っていたが、ストローがないし、別の店によって別のものを買わないといけないのでエコバッグの内ポケット(メッシュになっている)に嵌めて、また歩き始める。果汁100%のオレンジジュースを忍ばせている私。

1時間ほど歩き回り、帰宅し、ペラペラとフィルムを外してオレンジジュースを飲むと、案外飲みやすく、そうですねオレンジジュースを絞りましたね、という味がしておいしかった。たまごサンドのたまごに入ってる保存料以外は大抵の保存料を許せるので、保存料の有無は食べ物の評価にあんまり影響を与えないのだけど、そういえば角が立つ酸味がなくて飲みやすいオレンジジュースだなと思って、ごくごく飲んでしまった。あと3倍ぐらい飲みたい。