ベビーピンク

 考えてみれば、私の場合「嫌いな色」というのは存在しえないのではないか。私に似合わない色はある。私の好みではない色もある。でも、嫌いな色は無いのかもしれない。色を嫌うとき。そこには過去の出来事、感情があって、嫌な出来事や苦々しさと色が結びついたとき、私はそれを嫌いと言うのではないかしら。ただ、そういう記憶がないので(私は忘れやすいのだ)嫌いな色はないのかもしれない。

 そして、私のスタイルではない色は少なからずある。例えばベビーピンクとか。なんというか、自分は可愛らしさとは無縁であるのだ(そしてポケモンプクリンはとても好き)。可愛らしくありたいという願望もない。そして、スマートフォンのカバーはベビーピンクなのだ。

 比較的長く使っていたスマートフォンを新調した。画面が小さくなった。手が小さいから小さくなってくれた方が助かった。スマートフォンのカバー売り場に立ち寄ると、ベビーピンクのカバーが他の色より安かった。自分はスマートフォンのカバーに何を求めるだろう、と少し考えることにした。カバーとしての最低限の機能(スマートフォンの表面をカバーする)に加えて、塗装が剥がれなければいい、と思った。その前に使っていたカバーは、塗装がすぐに剝がれてしまったのだ。その状態で長く使い続けた。色は優先順位としては下の方だったので、安いならばと(そしてこのまま買われることがないならば)ベビーピンクのカバーを買うことにした。

 「えー、ベビーピンクって似合ってない」とか「そういう色好きじゃないと思ってた」と言われるならそれはそれで。本来、誰がどの色のアイテムを使おうが構わないのだ。屈強な男でも、可愛くない女でも。

 柔らかく可憐なスマートフォンを見る度に、私はこの色を主体的に選んだのだと思って、けっこう元気になる。