紅茶のクッキー

あまり良いことではないだろうけれど、他の人の買い物を覗き見るのが好きだ。というのも、それは私にとっての不可能性だからだ。

数ヶ月前に通りがかって以来気になっていた焼き菓子の店に行ってみる。最初通り過ぎた時はお客さんはおらず、焼き菓子の店の前に行きたかった店に行った後引き返すと、あら、運が悪いことに数名の列。急ぐこともないし、と、列に並ぶ。

私は他人の買うものを眺めるのが好きだ、ということで、店員さんと会話しながら商品を決めている女性を観察してしまう。暇だし。

贈答用らしく、棚を左へ右へ行ったり来たりしながら女性は商品を選んでいく。時間のかかる行為だ。そして待機列はどんどん伸びていく。それは仕方のないことだ。

私が心惹かれたのは、その女性ががっつり買い物をしたことだった。量が少なく単価が高いので驚きはしないけれど、しっかりとした金額だ。あらあ、と私は心の中で感嘆の声をあげる。そんな買い物をしたことがないからだ。 贈答する存在もいないし、吝嗇家寄りだし。私はもう少し誰かに対して優しくなった方がいいと思う。その女性は、焼き菓子の詰められた箱の入った紙袋を持って店を後にした。

私の番が回ってきた。申し訳ないことに、有り金も鑑みて、紅茶クッキーしか買えないのだった(二個は買えない、その前に寄った店でアイスコーヒーを飲んでしまったのだ)。それでも店員さんはにこやかにクッキーを手に取って、丸い盆の上に載せた。レジ袋が要らないほど小さいパッケージで、クッキーひとつひとつが分厚かった。

これまた風情のないことに、帰り道を歩きながら買ったばかりの紅茶クッキーをつまむ。袋を開けた瞬間紅茶の香りが広がって、過度な甘さもない素朴な味でおいしかった。充足感。今度はもう少しお金を持っていって、他の菓子にもチャレンジしてみたい。