海沿いの道を歩く朝

 気がついたら朝だった。部屋は青みがかった灰色。
 遮光カーテンを引いた窓はうっすら明るく、窓から遠ざかれば遠ざかるほど暗くなる。
 コーヒーテーブルの上に水の入った透明なグラスが1つ置いてある。
 掛け布団を引きはがすと、私は起き上がり、窓際に立つ。外の世界もまた部屋と同じ青みがかった灰色をしている。
 グラスを呷る。透明な水がからだの中を落ちる感覚に集中する。
 枕元に畳んでおいたTシャツとジーンズを身に着ける。
 Tシャツは気楽で好きだ。ジーンズもまた然り。どうして人間はTシャツとジーンズだけで過ごすことはできないのだろう。いや「自分がその気になれば」Tシャツとジーンズで過ごすのは容易い。Tシャツもジーンズもただそこにあるのだから。明らかに「こちら側」の問題である。
 そんなことを考えながら、体は自動的に身支度を済ませていく。身支度を意識的に行わないこと。無意識に整えることでなんとか人間らしさを維持しているような気がする。身支度は、嫌い。