由々しき事態である。

 

最初の一匹を見かけたのは、川沿いの遊歩道だった。桜の並木が今の時期は青々と繁る、気持ちの良い道だ。

視力が悪い私は、道端に落ちている物をまずは死骸だと思うようにしているのだが(何故なら不意に出会ったときに少なからず動揺するから)せっかくの備えも無駄だったみたいだ、川に面した方、アルミの柵の下に鳩の死骸が。

死骸と言っても、喰われたか分解されたかで、胴に相当する部分は大方消失していた。それでも鳩のそれだとわかるのは、胴があったであろう部分に対してまるで天使の羽のように、翼が空しく広がっていたからだ。ああ、鳩だなと思った。その道ではよく鳩が地面をつついているのを見かける。

私は足を止めずに通り過ぎ、だいぶ歩いて初めて「こういう場合は役所に報告したほうがいいのかな」ということを考え始めた。鳥インフルエンザの流行、防疫の観点からの要報告。でも季節ではないし、だいぶ朽ちているわけだし、まあ、いいかと思ってそれきりになった。

それが先週、先々週あたりのこと。そして、私は二匹目に遭遇する。二匹目は車道の端で伸びていた。一匹目に比べればまだ死んでから浅そうだが、浅いが故によくわからないことになっていた。つまり、多少はぐじゃぐじゃになっていたということだ。冒頭でも書いた通り、私は好き好んでそういうものを見たいわけではないから、例の如く足を止めずに通り過ぎようとし、刹那、胴(らしき物)がひっくり返った結果突き出る形になったピンクの枝のような足だけ、目に焼きついた。犬神家の一族のあの足のように、胴に刺さったピンクの足。

まったくもって由々しき事態である。自転車かバイクかに轢かれたのかなあと思うけれど、鳩はそこら辺で死ぬのだなあと、なんとも言えない気持ちになった。誰が片付けているのか、あるいは人知れず死んでいくのか、街で死骸を見ることはそこまでない。それでも生きとし生けるものいずれ死ぬわけで、私はこれからも誰かの片手袋やらスカーフやらお菓子の袋やらを死骸かと思ってびくびくしながら街を歩くのだろう。