灯台目指して

かねてから行きたかった場所に行った記録。

どこかに出かけると芋蔓式に行きたい場所が生まれる。今回も、2年くらい前に出かけた先で拾ったキーワードを調べてたら面白そう!と思って、行きたい場所としてリストアップしていた場所。買い物しようと街まで出かけたら、他にも欲しいものができちゃった、というのと同じ構図。

海の近くに点在する家々は、人が住んでいるのか住んでいないのかよくわからない。別宅として利用している気もするし、家として打ち捨てられたとも言える。なんにせよ、人気は皆無だ。人がいそうでいない場所、寂しい場所を歩くのが好きだ。そろそろ水が張られつつある田んぼの方からゲコゲコとひたすら蛙の鳴き声が聞こえる。

潟湖。読み方は「がたこ」ではなく「せきこ」。水面がちらちらと光っていていい感じ。日差しは強いが風も強く冷たい。

海。この数ヶ月で海を見たのは何回だろう。3回?4回かも。覚えていない。他のどの海とも様子が違う、荒々しい海だった。気圧の問題なのか。地理の問題なのか。どどーんと岸壁にあたって砕ける飛沫にテンションが上がる。他には車二台。男性たちが私と同じように荒れた灰色の海を見つめていた。

灯台。徒歩で訪れるような酔狂な人間は少ないのだろうか。歩いて上る人は結局行きも帰りも見かけなかった(でも一応ハイキングルートとして整備されてるのだ)。60mとか100mとか、その辺りまで自分の体を持ち上げなければならない。ぜえぜえと斜面を上る私の横を颯爽と車が追い抜いていく。恥ずかしいのでそのときだけ帽子を目深に被り下を向く。やましいことはしていないのに。

上りきった先の景色は流石に雄大だった。先ほどの潟湖が見えるし、浜辺、川、家、田んぼ、全部が見下ろせる。水平線は霞んでいて指で染料を擦ったように淡い。風が強い。売店でソフトクリームを売っているようでそれはひどく魅力的に映ったが、店主が他の観光客と談笑していて一向に手が空かない。ソフトクリームは諦めることにした。ベンチに座り、ぼうっと海を眺め、温いミネラルウォーターを一口二口飲む。背が汗でわずかに湿ってるのがわかる。その日のミスは駅のトイレの個室に物を置き忘れたことと(すぐ回収できた)やや厚手のトレーナーを着てきてしまったことで、それ以外は問題ない、総じて上出来なお出かけだった。灯台というのは真下から見上げても面白くないのだということを知った。確かに今まで見てきた灯台も遠くから眺めたほうが好きになった。

上ってきた坂を下る。下りも下りで大変である。足首と膝に意識を向けて慎重に下っていく(そして車に追い抜かれる)。

景勝地の岩を見て、サーファーがぷかぷか浮きながら波を待つ海岸に行って、波と人間の戯れを眺め(サーファーという人はイメージできないけど、独自の世界がそこにはありそうだ)帰ることにする。暑い。悪くない。

大きなため池の横の道を歩いていたら、小さな小さな亀の子どもが首の辺りから液体を流して息絶えていた。車か自転車に轢かれたか、歩行者に踏まれたか。撮るべきじゃないだろうけど一枚だけ、ズームせずに写真を撮る。私がそれを目撃したのだというただそれを思い出すためのよすがとして。

田んぼに張られた水の上を、風が吹き抜ける、そのときの水の揺らぎが綺麗だった。

 

黒い血の涙を流す我々の標識。

 

白目は狂気の徴。

 

 \ パカ! /

 

結構良い絵だと思うの。

 

たっぷりと歩いたのでいい具合に空っぽになった。