草の匂い

 平日、休み、無限の可能性、そして数々の選択肢の中から選んだのは朝の散歩(七時四十八分)。たくさんの車で渋滞する道路。ちっとも進まない車の横を颯爽と抜けていくロードバイク。登校する学生たち。のろのろと歩くサラリーマン。おお、神よ、どうして人はこんなにも忙しいのでしょうか、と天を仰ぎたくなる、そういう風景。朝はまだ空気がひんやりとしていて、一方で既に高く昇っている太陽がじりじりと肌を焦がしていくのも感じる。風が吹き、草の匂いがする。昨日の私が仮に同じ時間、同じ場所にいたとして、この青々とした香りを感じたかというと、多分感じられなかっただろう。昨日の私は(平日の大概は)忙しかったから!このおよそ確実性の高い想像を、どう消化していいかわからなかった。忙しさが悪だ、と言うつもりもないのだけど。他に言いたいことがあるならば、いつでもいつまでも、あのとき私は草の匂いを確かに嗅いでいたし、それは今もできるということを忘れないで、ということ。