食器洗い

 食器洗いが好きだ。いつから好きになったのかわからないけれど、とにかくさっぱりすることだから好きだ。

 蛇口を捻れば温水を出すこともできるが、私は冷水で洗うことを好む。それが例え真冬でも。泡立てたスポンジで表の汚れを落とした食器を、「冷たいなあ寒いなあ」と言いながら水で濯ぐ(油汚れは温かい水の方が良いということを最近ようやく実感した)。

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 川を渡ることも好きだ。水が好きだから。そして川を渡るとき、私はいつも「ここから飛び降りたら」と夢想する。飛び甲斐がある川だろうかということを考える。

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 私は包丁を濯ぐ。シンクは私の腹の辺りにある。

 さて。今、濯いでいる包丁をだ、切先を腹に押し当て、柄をシンクに当てる。そうして私が倒れこめば、多分私は死ぬのだろう。

 その仮定に気づいたのが最近のことで、以来、包丁を濯ぐたびに、自分の腹に包丁が食い込む妄想をしてしまう(川を渡るときとおんなじだ)。苦しいとか怖いだとかは無いけれど、包丁を洗うときだけ少し緊張するようになった。理性を保てなくなったら自分はそうやって死ぬのかもな、と思っている。