Lv.26ゴローンみたいな人

 少し取り乱しながらこれを書き始めている。

 

 生まれてこの方、喧嘩をしたという経験がない。拳を使った物理的な喧嘩も、口を用いた口喧嘩もした覚えがなくて、でもそれって主観なんだよね、と思う。もしかしたら相手にとっては喧嘩だったのかもしれない。けれど、思い返してもそういう「イマジナリー喧嘩」もないのだよな。

 喧嘩というのは、私は対等な行為だと思っている。対等ではない関係における殴り合いや口論は、喧嘩じゃない、暴力だ。

 私が喧嘩をしたことがないのは、相手や勝ち負けにそこまで執着しない(のかはわからないがそういう)気質だけではなく、多分「この人にだったら殴られてもいい」という人が身近にいなかったんだよな。そう思うことがあったのだ。この人の拳なら受けられる、受けることでまた一つ強くなれる、という相手がいなかったのではないか。Lv.25のピカチュウがLv.5のポッポと「たたかう」みたいな感じだ。私がピカチュウになることもあれば、ポッポになることもあった。でもLv.25のピカチュウにとってLv.26のゴローンみたいな人(あるいはLv.5のポッポに対するLv.6のオニスズメ)はいなかったのだ。

 振り返ってみれば、私が「この人と会話してて楽しいな」と思うのは、私にはない専門性があって、かつ戯れに付き合ってくれる優しい人が多かった。Lv.25ピカチュウのでんきショックを受けてもたおれない人。私、そういう人としか楽しめないの?という悲しみである。大人じゃないなあ。甘やかされている気がする。

 ミットに向かってパンチを打ち込む。そこで黙らないでほしい。私は思わず泣きたくなってしまった。凡庸な取るに足らない女の意見に対し、真面目に頷かないでほしい。「そんないい加減な意見は聞くに値しない」と一蹴してくれたら私はあなたたちを馬鹿にできるのに。「いいやそんなことない。自分はこう考えています」とパンチを打ち込んでくれたなら、私は喜んでそれを受けとめ、またストレートを打ち込むのに。納得するなんて、本当に最低だ、と思って、さっきから私は怒っています(怒るのは不適切ともちろん理解しながら)。私は殴り合いがしたいのです。