夜の道

 コオロギのような虫の音が聞こえる夜だ。私の好きなアパート(というかマンション)を見上げると、カーテンの隙間から明かりがこぼれている部屋もあれば、真っ暗な部屋もあって、私はそれを、いいな、いいなと思いながら通り過ぎる。照明が落とされた部屋ってなんだか素敵。夜になってもいつでも明るい部屋より何倍も素敵。だって夜は暗いのが自然だから。

 車が一切通らない車道も素敵。片道一車線のその道路は比較的新しく、昼間は大通りと大通りを繋ぐ抜け道となり頻繁に車が往来するも、夜は一転閑散としている。車が通らないのだから歩こうと思えば歩けるのだが、私は車道の真ん中を歩こうとは思わない。憧れの人間を遠目からちらちら見るように(それはもうイケメンならぬ「いけてる車道」なのだ)私は歩道をおとなしく歩く。それで十分すぎる。