岩と弾力のある魚

楽しいことは探そうと思えば至る所にあるので蜜を集める蜜蜂のごとく(しかし私は蜂のように飛ぶことはできないのだが)ふらふらと歩き回っている。蜜集めに夢中で前を見ず歩いていたら何かにぶつかって思わず痛いと呟く。その何かは、つまりは自分のつまらなさだった。痛い。それに冷たい。ひんやりとした岩のようだ。岩は冷えたジェルのようなものに形を変え、皮膚から流れ込み、私の体も冷える。

***

川沿いを歩く。潮汐により多少水位が変化するようだ。今は引いているが、水が段差のすぐ下まできたことがうかがえる。

歩いていると、魚が一匹死んでいた。細長い。何に似ているだろう。私は鯵と鯖の違いがよくわからない。こんな川魚がいるのだろうか、海の魚のように思えるが。気になったので魚に近づくと私はそれを見下ろす。

まだ綺麗な状態だ。すぐそこのスーパーで買った魚をばら撒いたのです、と申告する人がいてもおかしくないくらい、綺麗な魚だった。蝿が一匹既にとまっている。目敏い。その周りを、黒の羽に水色の模様が入った蝶がふわりふわりと飛んでいる。ラメが入ったような、南国の水色。

横たわる魚の体を人差し指で触ってみたら。

多分今のところは私の指をある程度の弾力で以って跳ね返してくれる。岩とは大違い。生温かく、これから溶けゆく体だからなあ。

魚の目は充血していた。充血。体の酷使。余裕のなさ。体調不良。鬼気迫る。エナジードリンクと相性がいい。このように、既に充血は様々な意味を纏ってしまって、魚の目の充血は私の知るそれらの意味の外側にあるのだと確信しているけれど、魚は死んでしまってチャネルは閉じられた。

***

岩と弾力のある魚について考えていた。岩がそこにあるとき、弾力のある魚を見つけなければならない。いいや、見つけるというのは語弊がある。何故ならそれは隠されてはいないのだから。正しくは弾力のある魚を見る、だろう。

岩は消えた。体は温度を取り戻す。時々現れる岩、その壊し方を私は知らないということを、思い出す。