点描

 半袖では少し寒い夜だった。風が若干強い気がする。Stipplingという曲を聴きながら歩く。モノトーンの点描画ということらしい。私は「神隠し」という意味だったらいいなと思っていたので当てが外れたが、まあ、当たることはないよな。そもそも神隠しは英語だとSpirited awayだ。Stipplingじゃない。風が強い夜だしこのまま神隠しに遭えば、なんてことを考え、しかし頭上には満月に近い月。雲一つない空。なんとなく神隠しには似合わぬ夜だと感じる。多分『霧のむこうのふしぎな町』が念頭にある。私はこの作品を読み終えることができていない。次、図書館に行く際は借りてみようと思う。

 疲れたので街灯近くのベンチに座って少し休憩する。茶を飲みながら、なんというか、一人であることを噛みしめる夜が必要だと思う。夜じゃなくてもいいけど、周りに人がいない方がいいから夜の方が都合がいい。夜は色々なものを隠してくれるし。要は落ち着く時間が必要だということ。整理する時間。自分がどこにいて、世界はどうなっているのかを見つめる時間。仰々しい物言いだけど、でも、本当にそういう時間が必要なのだ。

 風が吹く。心が空になる。何も考えることがなく、足元にはダンゴムシのような虫が地を這っている。せかせかと。