粘着

電車の車内。吊り革のところに立ってぼーっとしていたら、黒髪ボブでゆるくパーマをかけた女の人に割り込まれて私はちょっと押し出された。当の女性は自分の黒のリュックをどさっと手早く網棚の上に載せ、安定したポジションを確保してスマホを弄っている。中途半端な場所に押しのけられた私は少しムッとしている。なんなんだこの人。

そういうことがあると、私は人をめちゃめちゃ観察しようとするので(良くないことだ)斜め後ろからその女の人をちらりちらりと観る。ふくよかな体型。身長は140cm台。操作しているのはiPhone6かな、ホームボタンが付いている。ワイヤレスイヤホンをしている。爪は塗ってない。手首には黒のApple Watch。リュックは耐久性がありそうな厚手の生地、たぶんいいやつ。ファスナーには革っぽい素材でできた熊の人形がついている。耳には大きなリングピアス。マスクはスポーティーな布製。足元はスニーカー。こんなところか。

ああ、つまらない。こんなことに拘う自分は好ましくない。

つまらないのだけど、所作が目立つ人、目につく人というのは一定数いて、どうして気を引くのか私は気になる。逆に言うと、集団に埋没する振る舞いを可視化するのは難しい。出る杭を記述する方が、出ない杭を書くより簡単だ。

 

人間って他人を観察しているのよね、と、つくづく思う。私もまた然り。観察し観察されている。電車の車内は言語化されないいくつもの視線が無線のように飛び交っていて、たくさんの水甕がある(人は水が入った容器だなと思う)。その中にどんなものが詰まっているのか、外側から観たところで得られるものには限度がある。