存在しなかった本

電車に乗るときは必ずと言っていい、本を2冊鞄に入れる。片方が面白くなくても、もう一方を読めるように。また、5駅くらい通り過ぎた辺りで飽きてくればもう一方の本を読めるように。だから今日も私は本を2冊、鞄に入れる。

昨晩、珍しく寝る前に本を読んでいた。それを今日も読もうと思っていた。電車で読む気でいたのに、それを寝る直前まで覚えていたのに、今日になって持ってくるのを忘れてしまった。多分枕の下に潜り込んでしまったのだろう。視界に入っていたら思い出せたはずだから。

見えないものは存在しない。

座右の銘ではないが、心に刻んでいる言葉のひとつだ。私にとって見えないものは存在しない。それは自分の心の平安を維持するのにはとても役立ち、同時に他者に対してひどく残酷になることができる"スキル"でもある。自戒を伴う言葉。

あの本、電車で読みたかったな。

代わり(存在を忘れてるのだがら代わりも何もないのだが)に持ってきた『象は忘れない』を読み始める。読みながら私は今朝の私にとって存在しなかった本のことを思い出す。帰ったら枕をひっくり返さなければ。