捻挫

 音楽を聴きながらたのしく歩いていたら、足首を捻った。左足を外側に。段差も何もないのに。何もないところでこけることはままあるのだが、今回はちゃんとした捻挫みたいだ。

 俯きながら歩いているわけでもないので、足を捻った瞬間というのを目視しているわけではない。興味深い。でも、見なくても体感的にわかるのだ。あ、やってしまったな、と。

 血の気が引くとはこのことで、捻挫した瞬間は痛みよりむしろショックの方が大きい。全身にびりびりが回り吐きそうになる。途端に気持ち悪くなる。捻挫でこれなら刺されたりはねられたりしたら比ではないだろう。遅れて足首が痛み出す。それが実感としてわかる。ようやく自分は捻挫したのだと理解する。痛む足首では自重を支えられなくて思わずトタン塀に手をつき、やっちまったな、と溜息をつく。

 吐き気が収まるのを待って足首を点検する。歩けるかどうか。どうやら問題なさそうだ。外側に捻ったのだから歩く分には痛む方向には可動しないと思う。とろとろと歩き始めても平気そうだったので家に帰ったら湿布でも貼ろう、真面目に歩き出す。

 歩けないほどの痛みなら多分私は一人泣いてしまうだろう。本格的に怪我をするというのは悲しいことだ。歩ける程度の捻挫でもこんなに惨めな気持ちになるというのに。

 家に帰ると引き出しの奥にある湿布を取り出し、私の足首には大きすぎるので一枚を半分に切って気休めに貼っておく。本当に痛むのだろうな? と何故か不安になり(それはまるでずる休みの口実を探すときの様)ぐるりと足首を回すと少しだけ痛んだ。明日、明後日にはおそらく癒えているだろう。湿布のツンとしたにおいが鼻についた。久方ぶりの湿布。