カルボナーラ

 料理に関して今の私はとても中途半端な状態だと感じる。食べることと作ることが分離していてどちらにも真剣になれない感覚。不真面目に真面目でいられないという不自由さ。だから自分の作ったものがおいしいと思えないし(逆に不味いとも思わないが)着実に何かを積み上げていく過程の充足感もない。ちょっと悲しい。私は料理を好きになれそうなのに。

 カルボナーラを作れるようになりたかった。今のところ自信を持って作れる料理はペペロンチーノくらいで、他の料理は適当になんとなく作れる程度だ。悲しい。カルボナーラは難しいと思っていた。手順もややこしくて生クリームを入れるのだか入れないのだか、粉チーズを入れるのか入れないのかいつもよくわからなくなるのだ。ただ、そのレシピは材料が僅かで工程もとても簡単に見えて「私にできそう!」と思えたから作ってみた。

 結論、めちゃめちゃおいしかった。うまー、うまー、と一人で驚きながら食べた。皿に残ったソースはとろりと濃厚で、スプーンですくって口に含む。卵とチーズでこんな味になるのか。これは紛うことなきカルボナーラの味だ。もう市販のパスタソースは買う必要ないな、材料さえあれば自分の好きなときにカルボナーラ作れるぜい、と愉快な気持ちになった。スーパーマリオであれば1upした感じ。

 後で線を引かないと。皿を洗いながら、私は机の上に広げたノートのことを思い浮かべる。やりたいことリストのNo.119「カルボナーラを作る」。思いっきり自信を持って赤線でびーっと、消してやれ。カルボナーラの作り方を覚えたところで、やりたいことがまた一つ達成された。それは同時にやりたいことが一つ消えたということでもあった。

 まだまだやりたいことはたくさんあって、叶えることが難しいものも含まれているから実質永遠に項目が消えないリストかもしれないけれど、そういう荒涼とした佇まいを私は愛おしいと感じる。所詮は星座を構成する一つ一つの星のようなものだ。気楽に叶えていこう。