ミヤコワスレ

とある日の朝5時半

「いっそ殺してくれ!」

 そんな台詞をかつてハリーポッターの中で読んだ気がするのだが気のせいだろうか。磔の呪文かな、よくわからない。ああそうか、ダンブルドアか。思い出した気がする。それと、最近新聞を読んでたときにこんな言葉とも出会った。「死なない為に生きてきた」。「わかる」とは言えないし言わないが、わからなくはない。

 

 気分の落ち込みなんて書きたくはないのに。これが書きたいものであるわけがない。書かなければ書かないに越したことはない。そもそも落ち込みたくない。書きたくなければ書かなければいいのに。もっともな指摘だね。けれど、書かないと浮かばれないと感じるのだ。書けば笑い話にできそう。だから私は書く。

 書くなら書くで、面白く書きたかった。けれど当然こんな荒んだ気持ちでは面白く書けない(平生でも私の文章が面白かったことなんかあったのかわからないが)。うーむ。私は頭を抱える。まるで紫色の花々が頭の中に散らばっているようだ。花。床に散乱する色とりどりの花弁。いや、ガラスの花瓶。透明な水が入っている。鮮やかな黄緑色の茎の束が見える。

「散らばった花々を束ねてリボンを結べばそれは一つの美しい花束になるのではないですか?」

 と、唐突にひらめきが下りてきた。花? ふむ。そうね、そうだ、花束を買おう。小さくて可愛らしい、けれど強い花束を。買った花束を部屋に飾ろう。

 俄に元気が出てきたので私はパソコンで花が売られている場所を調べ始めた。花束はちょっと高いなあ。じゃあ一輪単位で買うかな。どんな花を買おう。どう飾ろう。考えているうちに、空を覆う雲はあかるくなってきた。ノートPCの電源を落とし、今日の準備を始める。

 

とある日の午後7時半

 なかなか花屋に入ることができない自分がいた。花の買い方がわからない。1輪だけ買うというのは許されるのだろうか。大丈夫なのかな。勝手がわからずどうも不安だ。

 花屋は思ってた以上に客がいた。少なくともだれもいないということはなかった。母の日のギフトにどうですかというポップアップ。赤やピンクという言葉では形容できない絶妙な色合いのバラ、バラ、バラ。でもバラの気分でないな。いささか華麗過ぎる。ガーベラも魅力的だな。この際花が咲いてなくても構わないと思った。

 と、花瓶を持っていないことに気づいた。それなら今日は無理だけれど花瓶を買おう。決めた。結局10分くらい悩んでミヤコワスレという花を買った。花の中央は鮮やかな黄色で、花弁は濃い紫色の小さな花を二輪。

 

 花のある生活。この文章を書きながら、私の隣には二輪の愛らしい花がいる。視線を横に向けると花弁と目が合う。私は一人ふふふと笑う。今日一日とても長かった。さっさと眠って回復したい。水をぐんぐん吸収しよう。