ソーナンス

 日に日に綻んでいく廉価版モレスキンをぱらぱらとめくり、最後のページを開く。罫線が引かれただけで他は真っ白なページに、私は一行ずつ書いていく。本を読む。本の感想を書く。部屋の片づけ。勉強(具体的なことをいくつか書くが書きたくないので割愛)。粘土づくり。気になっている事柄(これも具体的なことなので割愛)。書き写し作業。

 何を書いているかというと、「私が駄目になりそうなときにやることリスト」である。駄目になるというのは、例えばYouTubeの動画を見続けてしまう、とか、ゲームをやめられない、とか、ネットサーフィンばかりしてしまう、とか、そういう状態のこと。いいかげん駄目になることにうんざりしてきたので(とはいえ、駄目になることは悪いこととも限らない)対処する為のリストを作ることにしたのだ。駄目になりかけの私は、自分の好きなことや楽しいことを忘れがちで、それを思い出す為のリストってわけだ。海に浮かぶ一枚の板切れのような。息も絶え絶えな私がやっとの思いで縋り付く木の板。

 

 粘土でソーナンスを作る。ソーナンスはがまんポケモンらしい。知らなかった。まっくろなシッポをかくすためくらやみでひっそりと生きている、とのこと。陽気な印象が強かったのだけれど、あのハイテンションぶりは己の大切にしているものを隠す為のフェイクなのかもしれない。ソーナンス、とても人間らしい、いや、逆か、ソーナンスのような人間はたぶん少なくない(私はどうだろう)。

 白の粘土に青の粘土少量を混ぜる。粘土は異なる色同士の配分がなかなか難しく、今のところ一番たのしいところだ。白と青だけでは鮮やかな水色になってしまうので、黒少量を混ぜてみたところ、少し暗さを出すことができた。こんな風に「こうしてみたらどうだろう」という試みがきまったりきまらなかったりするのがとても愉快。今回はうまくいったと思う。そして再現することができないところも好きだ。

 ソーナンスの足元。こうしたらいいのでは?というアプローチは悪くなかったが、胴体とのバランスをもう少し考えられれば良かった。またソーナンスのシッポには二つの目みたいな模様(もしかしたら本当の目かもしれない)がついているので、ここは頑張った。いい出来。ソーナンスの足元なんて今まで考えたことが無かったので、やっぱり粘土遊びや楽しいや。特徴的な目と口を入れる前に胴体を乾かした方が良さそうなので、のっぺらぼうのソーナンスがお菓子の空き缶に凭れかかっている(シッポをいい感じに固定したまま乾かしたいので)。昨日の私より、ソーナンスのことが好きになった。わはは。

 

 朝食はご飯を食べたいところだが、偶にトーストを食べることがある。今日がそんな日だった。

 スライスチーズを余らせてしまったので(昨晩、開封したスライスチーズを余らせなければならない事情があったのだ)それを溶いた卵にちぎって入れてフライパンに流し込んでスクランブルエッグにする。一方で冷凍した食パンにマーガリンを塗って、トースターで焼いて、カリカリに焼きあがった表面にマヨネーズとケチャップを薄く塗る。マーガリンにマヨネーズにケチャップ? 図らずも高カロリーな食べ物になってしまった。そしてスクランブルエッグをパンにのせて食べる。これが食パン一枚食べる為のテンションの上げ方。別に嫌いなわけではないのだが、それ以上にご飯を食べたいのだ、私は。もちろん美味しかった。たぶん、美味しく作るより、作りたい食べ物を作るのが楽しい。

 

 がまんポケモンソーナンスソーナンスに戻ってきた)。ポケモンってのはタイトルによって同一ポケモンでも覚えるわざが異なるらしく、ソーナンスがどうなのかわからないけれど、ソーナンスが覚えるわざとして「ミラーコート」ってのがあって、これは「相手の特殊わざのダメージを2倍にして返す。必ず後攻になる」というわざなのだが、ソーナンスのことを踏まえたうえで考えるとハチャメチャに怖い。

 地震のメカニズムがそうであるように、火山の噴火がそうであるように、抑圧されたことで溜まったエネルギーが弾けたとき、その威力は格段に上がるということ。

 昨夏から楽しんでいる『アイドリッシュセブン』(ゲームとか)の逢坂壮五くんは、普段はとてもおとなしく礼儀正しく善良で謙虚な、とても素敵なアイドルであるが、メンバーが籠っている部屋のドアをスクリュードライバーで強行突破したり、事務所に不法侵入してきた不審者と仲間が取っ組み合っているものだからパソコンを放り投げようとしたり、有名な過激エピソードがあって、また酒に弱いってのもあるけど、そう、私は彼のことを思い出す。

 でも、我慢をする人にとって我慢をするというのは息を吸って吐くことのようなもので、息を止めろと言えないように、我慢をするなとも言えない気もする。だから我慢をやめることよりも我慢をすることで溜まっていくエネルギーを適度に発散させる術を学んだ方が前向きで楽しいだろう。「突然キレる子どもたち」みたいな話(そういうのがあるのかはわからん)で言われてそう。

 ソーナンスミラーコートのように二倍にして相手にお返しするのが効果的な状況もある。それをポジティブに使えれば全然いいのだけれど、誰かを傷付けることになると我慢した人もめちゃめちゃ傷つくはずで、それは悲しいよな、という話。だから私も誰かの悪口は適度に発散しないとね、それが暴発したとき社会的に生きていけなくなっちゃうね、という話。