とても淡い恐怖

 横断歩道を渡るとき、私は車に轢かれる気がしてならない。

 車に乗っていても事故に遭う気がする。特に交差点を曲がるとき、直進の車にぶつかる自分を想像をする。電車はあまり思わないけど、鉄橋を渡るとき、カーブするとき、快調に飛ばす快速に乗っているとき、列車が脱線して次の瞬間ブラックアウトする未来。

 橋を渡るとき、崖沿いの道を歩くとき、クレーンで鉄骨を吊り下げる工事現場、駅の階段、泥濘んだ坂道、軸が折れた観覧車、脱輪する大型トラックの車。思い浮かべるは最悪の想像ばかり。でも日常生活を送るのが困難になるほどではない、淡い淡いこの恐怖は、もはや恐怖を名乗るほどのものでもなく、強迫観念と呼べるものでもない。

 ただ、そういう恐怖もあるのだと、他ならぬ私は覚えていたいなと思ってこうして書いている。他の人は怖くないのだろうか。聞いてみたことがないけれど。今度誰かに聞いてみたい気がする。悲しいけれど、結局死ぬときは死ぬのだ。いちいち過剰に恐怖していても仕方がない。