幼児

電車に乗っていると(空いていたので私は端の席に座る)幼児2人を連れた女性が乗ってきた。おそらく兄妹だろう、兄の方はこれまた推測だけど『鬼滅の刃』の、炎の人、煉獄さん?の刀を模したおもちゃを手にしている。妹の方はベビーカーに座っていたが、兄が座ると我もと手足をバタバタさせベビーカーから下ろせと訴えている。

とてもいい子たちだった(「いい子」なんて嫌な表現である)。小さな子がたくさんの知らない人間に囲まれた空間で大人しくするなんて無理な話なのに、きちんと靴を脱いで(妹の方はお母さんに脱がせてもらって)窓から外を見ていた。私に背を向けてるので表情まではわからないが、きっと目をキラキラさせているのだろう。

女性は女性で、落ち着いた様子で妹に飲み物を飲ませたり、兄の質問に答えたり、私はすごいなぁ…と思ってしまう。

降りる駅が近づいてきて(私もその駅で降りたのだが)兄は母に催促されながら一人で靴を履く。剣も赤、靴も赤、赤が好きなのだろうか(私も好き)靴を懸命に履く様子は健気だ。兄妹は母と一緒に電車を降りた。私もその後に続いて降りた。行き交う人の流れに遮られ、親子の姿はすぐ見失ってしまった。ただそれだけの話。

ただそれだけの話なのだけど、人間というのは純度の高い光景に出くわすと虚を衝かれるようで、親子と別れてからもどこかぼうっとしてしまった。普段いかに淀んだ世界で生きてるか思い知らされてしまったような(綺麗すぎる川に生き物はいないとも言うけど)そんな感じである。