もんじゃ焼き

 ベビースターが見つからない。

 22時。フロアを私はぐるぐるぐるぐると歩き回る。目が回ってくる。目がまた悪くなったので、文字情報を拾う量は以前より減ったけれど、それにしてもこの店は物が多く、売り場が分かりづらいのが厄介だ。

 ベビースターの属性を考える。ベビースターはお菓子だ。飴には属さない。駄菓子でもない。チョコでも、煎餅でもない。スナック菓子?スナック菓子だろうけど、ポテトチップスでもなければとんがりコーンでもない。ベビースターは、ベビースターだ。

 結局10分ほどお菓子売り場を回遊して、柱に掛けられているのを見つけた。小袋が5つほどつながったタイプの商品。堅あげポテトやサッポロポテトの小袋も同様に掛けられていた。そこで私は気づく。私、ベビースターを買ったことが、ないのだ。

 翌日、私はホットプレートを取り出して卓上に置く。延長コードで電源をつなぐと、加熱する前に素材の準備を始める。

 きゃべつを一枚一枚をめくりとる。重ねた葉をざくざくと細切りに切っていき、90°回転させて今度は粗みじん切りにする。薄力粉、水、ソース、白だし。入れてシャシャシャとかき混ぜる。そこに刻んだきゃべつと揚げ玉を入れてさらに混ぜる。これでタネは完成。ああ、あとはベビースターを一袋分入れることも忘れずに。

 加熱したホットプレートに具だけ入れてじゅうじゅうと焼き始める。開け放した窓から風が流れてきて、風下にいる私は思いっきり煙をくらう。具材がしなしなとなってきたところで、ドーナツ状に土手を作り、穴の部分に汁を注いでいく。あとは適当に。どろっとしたらもう完成だ。シリコンの小さなへらを取り出すと、私はちびちびと食べ始める。それは午前10時のことだった。

 口の中、少し火傷した。

 もんじゃを食べながら無課金でガチャを引く。どんどん引く。自分の運を試す。どんどん増えていくカード。様々なキャラクターを見ながら考え事をする。

 男性、女性という属性を使うことに抵抗感がある。が、致し方なく用いて表現するならば、私は男に憧れ、また、女に憧れない女なんだろうなと思う。でも生まれ直すなら女がいいな。絶対女がいい。私、女キャラ(という言葉は使いたくないんだけど)メインのスマホゲームとかやらないもんね。可愛いなあとは思うのだけど私は別に欲しくないのね。一方でたくさんの男たちが登場するゲームは遊ぶ。だって欲しいから。

 『ムヒョとロージーの魔法律相談事務所』では、ソフィーという女の子の悪霊が登場する。彼女は生きている人間の顔を剥ぐことで剥いだ人間に成り代わることができるのだけれど、もし彼女のような力があれば、私はその力を行使しただろうか。他人が羨ましい。私以外のありとあらゆる人間になってみたい。だから顔を剥いだだろうか。他人に成り代わる為に。私で感じられることには限界があるもの。私であることが私の限界なのだもの。でもきっと、力は使わなかったと思う。隣の家の芝は青い。私が持っていないものは、私が持っていないからこそ美しい。そうやって自分をなだめすかして、私は伸ばしかけた手を下ろし、拳をぎゅっと握る。理屈がわかっているから平気だけれど、時々耐えられないかもしれないと思う夜があって、そういう時は困る。だからもんじゃを食べる。憂さ晴らしじゃあ。