ミニトマトに追い抜かされる

 帰りは駅と駅の間を余計に歩く。ワクチン注射した方の腕が痛い。痛いのもあるけれど、筋肉が張って肩より上にあげられない。こりゃあ、泳ぐのは無理だな(元より大事をとって運動するつもりはなかったのだが)なんてことを思いながら、よたよたと歩く。熱はない気がした(いいえ、家に帰ったら微熱だった)。ただ足先までぽかぽかしていて、これが単なる暑さの問題か、私の体調の変化なのかはわかりかねた。いや、わかりたくないと言った方が正しいな。
 そんなことを考えていたら、後ろの方からカサリと音が聞こえた。次の瞬間、カサカサの音を伴って、プラスチックのパッケージがアスファルトを転がってきた。ぐるぐると回転しながらそれは私をあっという間に追い抜いていった。私は「ミニトマトだな」と思った。ミニトマトを入れるプラスチックのパッケージの深さだった。
 と、回転するミニトマトは道端に植えられた茂みに引っかかって止まった。私は程なくトマトに追いついた。後ろを振り向き、私の姿を見咎める人がいないことを確認して、屈むとトマトのパッケージを手に取った。岩手県ミニトマト。空のパッケージ。物を捨てるのが苦手な私は、トマトと一緒に歩き始める。先に述べた通り、腕は痛く、背負ったリュックをあーだこーだして体の前に回すのも億劫で、となると、駅に着くまで空のミニトマトの空きパッケージを手に持って歩く不審者になるのだった。まあ、気にする人はいるまい。私は歩く。ミニトマトのパッケージを伴って。
 あいにく中身はないけれど(中身があったら、そもそも風に飛ばされない)、歩きながら時々食べるってのはなかなかパンクではないか?(パンク、とは)と思う。もぐもぐとミニトマトを口に含む私。じゅわりと弾ける果肉。水分とミネラル、酸味を摂ることができそう。もぎたてのトマトをかじりながら歩く田舎道。それは今のところ幻。私の手にあるのは真っ赤な太陽の色をしたトマトではなく、透明なプラスチック。
 駅に到着した。電車の車内で邪魔にならないよう、リュックを体の前に持ってくる。そうして私はトマトのパッケージをリュックに仕舞い、連れ帰った。

 連れて帰ってどうしたかって?ちゃんとゴミ箱に捨てました。

 

  青芝もいずれ枯れゆくしかし波