てへりてへり

 少し泳いだ後に書店に立ち寄る。
 毎月一回、きまった書店に赴いて本を一冊買うということを己に課しているが、今日はその日ではない。故に本を買う心づもりはまったく無かったのだけれど、平積みされた本に魅かれ買ってしまった。
 カバーはかけなくていいです、袋も要りません。
 会計を済ませるとレシートを適当に開いたページに挟んで書店を後にする。レシートは本に挟みがちな私である。いつ買ったのか把握できるし、読み直したとき、不意にレシートを見つけたときのくすぐったさが好きなのだ。それは簡単なタイムカプセルのよう。
 買った本を左手に持ちながら、私はてへりてへりと歩く。てへり、てへり、である。「てへ」とは「てへぺろ」の「てへ」である。
 衝動的に本を買うとき、私はてへてへしてしまう。未来の私よ、支払いは頼んだ(クレジットカードで決済する)。「いいだろ~本を買ったんだぜ~」と、お山の大将のような勇敢さを束の間手に入れる。気を抜くと体が溶けてしぼみそうになる。つまり、嬉しいってこと。
 道行く人も、おそらくそれぞれの「てへりてへり」があって、どうにか形を保ちながら歩いているのだろうなと思うと少し笑えてくる。溶けない私たち、えらい。
 しばらく歩いたら、てへりが落ち着いてきたので、ぱらぱらと本のページをめくる。レシートが風で飛ばされそうになる。慌てて本を閉じた。

  吐き切ったプールの底は世の果てよ