プールサイド

 私が泳ぐコースには誰も人がいなかったので、プールの壁に向き合うとうつぶせに浮び顎をプールサイドに乗せる。そのまま何もしないと体は沈む一方なので、顎で体を支えつつ、時折足を打って体を浮かせる。ちゃぷん、ちゃぷん、と。

 世界に音が戻る。泳いでいると案外音は聞こえないものだ。水中はいわずもがな、水から顔を出していてもなかなか音が戻ってこない。

 しばらくぷかぷかと浮かぶ。プールサイドに敷かれた排水溝の蓋にプールの水が吸い込まれていく。ちょろちょろと流れる水の音が心地よく、ぼーっとその音に耳を澄ます。ぺたんと頬をプールサイドにつけ、私は自分の二の腕を見る。水滴。皮膚は撥水性を持っているのだなあと思う。女で良かったなと思うのはこういう時。

 100mを10本くらい泳ぐ。25mを、行って、戻って、行って、戻って、で1本。ターンは3回。3回という数字はなかなかいい数字。1回目のターン、なかなか調子が良い。2回目のターン、ちょっと怠い。3回目のターン、怠いけどこれで最後だから。自分をどうにかなだめられる回数が3回。