ソフトシェルクラブ

 体調が悪いというのが稀である。この場合の「体調」というのは精神的な不調を含まない。

 髪を切ってもらって家に戻るとどうも気分がすぐれない。吐き気がして怠い。珍しいことなので動揺する。案の定メソメソし始めた。仕方がないので布団に横になることにする。横になれば治まるだろうと思ったのだ。しかし、しばらくしても吐き気が治らない。諦めてしばらく昼寝することにした。スマホでアラームをセットして私はとろとろと眠りにつく。

 眠ること、好きだ。「とろとろと」という感覚が好ましい。溶けるように眠る。布団に溶け込む。空気のすべてになる。

 弱くありたい。頑張りたくない。そういう欲望というのか、悲鳴というのか、存在に気づく。先ほど美容師さんと会話した内容が蘇る。「ああ、自然が好きなんですね」「そうかも。というより、人が好きじゃないんですね、私は、多分」

 弱っている。柔らかくなっている。なぜなら昨日とおくの町に出かけたからだ。電車に乗って、ほぐれていく体。脱皮したばかりの柔らかいカニのよう。ちなみに脱皮直後のカニのことを「ソフトシェルクラブ」と呼ぶらしい。ソフトシェルクラブ、私。

 

 18時ぐらいに目覚めると吐き気はおさまっていた。殻はまだ少し柔らかめ。