鴨と紅

 歩く。陽の光。水辺の岩に鴨の群れ。胴体がモフっとしている鴨。モフっ。モフモフモフ。モフ。鴨を眺めてニコニコする。微動だにしていないのに可愛いだなんて天才だ。人間は人間の場合は表情や所作に可愛らしさを見出すのに。つまり人間は動いているとより魅力的ということ?

 確かに私は生きている。毎日。

 これまでの文章がそれを保証してくれていること、とても嬉しく思う。

 

 口紅を塗ることはあんまりないのだけど(苦手)万年筆でさらさらとものを書きながら、ふと、ああ、まるで唇に紅を引いているみたいね、と思ったのだった。インクの出方が、似ている。書きたいことがまずあって、書こうとしている文字があって、それをなぞるようにペン先を滑らせインクを乗せていく感じ。ブルーブラックのインクが、一瞬だけ遅れる感覚わかります?それがお化粧のよう。

 帰ると椅子に座りノートを開く。言葉を紙に乗せていく。「鴨」と書いた。鴨がね、可愛かったの。