生首

 土曜の朝8時37分に道を歩いていたら、近くのアパートに入ろうとしているトレーナーにスウェットのパンツ姿の男性、右手には生首を持っていた。「生首かあ」と思ってもう一度見たら、多分あれは六枚切りの食パンだった。要は朝食のパンを切らしていたから、この先のコンビニまで出かけて食パンを買って、レジ袋は固辞し、ぎゅっぐるぐると口を絞った食パンの袋の開け口の部分を持っていただけなのだろう。けれど、私は落ち武者の生首を髪の部分で持って戦場から戻ってきた姿に見間違えたのだ。私はアパートの前を通り過ぎる。その男の人はこの後パンをトースターにセットして、焼きあがったらマーガリンでも塗ってトースト食べるのかな。いいなあと思った。トースト食べたい。久しく食べていない。15秒後には生首のことは忘れた。