勘違い、銃口、荒れた海

 「あんた勘違いしているよ」

 背中に銃口を突き付けられている。硬くて重たい人殺しの気配。肌で感じる。私はビルの屋上、眼下に広がる東京の街。車の流れ。滞りない血液循環。

 

 何言っているかわかんない。あんたは間違っている。言われたことはないけれど、大体自分の言っていること考えていることは間違っていて、不適切で馬鹿馬鹿しく夢のような虚言だってこと。知っている。

 私は、私以外の人間全員間違っていると思っているし、正しいのかもしれないとも思っている。間違いなのか正しいのか、それがわからない。どうしてみんなすぐに白旗赤旗揚げることができるのだろう。

 それは正しいよ。間違っているよ。そうやって他の人がすぐに旗を揚げるのを見ると、私の胸は刺されたように痛くなる。その真っすぐさが不安で怖い。砂浜に立つ私の足は波にすくわれ海へ引っ張られる。そちらに行きたくないのに足がもつれ転び波にもまれ肺に水が入り込む。

 

 正しくありたいわけじゃない。他方で間違ったままでいたくもない。

 私は他人に銃口を向けたくない。誰かの為ではなく、他ならぬ自分の為に。

 

 「私はこう思うよ」それだけ言えれば良かった。言えなかったとしても、声にならない言葉を常に持っていたかったなと思う。これからも実践できればいいなあ。それはささやかな願いです。自分に要求すること、それくらい。

 

 勘違いを恐れず、しかし、勘違いを指摘されたら認めて己の中で吟味すること。それでも、最近は結構波が荒々しい。簡単に足がとられるし、海に引きずり込まれてしまう。落ち込むし、油断していると泣きたくなる。今日はちょっと油断していた。

 間違いを正したいのか、ただ間違いをあげつらいたいのか、わからんなと思うことが時々ある。そして人の間違いをきちんと指摘するのは偉いなぁと思ったりする、私にはそれができないから。

 

 頭が痛くなってきた。