何かのついで

 バランスボードを奪った。

 バランスボードというのは、体幹を鍛えるための不安定なボードで、グラグラするその上に乗り上手くバランスをとることで体幹を鍛えましょうという製品だ。奪った相手はダイエットのために買ったらしいのだが、使っている気配がないし、自分が使いたければ声をかけてくるだろう。今は私の机のすぐ脇に置いてある。

 ちょっとしたタイミングで乗るようにしている。机に戻ってきて何か作業する時、あるいは、机から離れてどこかに行こうと思った時。堪えられずバランスを崩し足が床についたら終了。体幹が鍛えられている実感はないが、思わぬ副産物を得られた。

 私は自宅でなかなか本を読むことが出来ない。幼い頃から他ならぬ家で本を読んできたはずなのに、気がつけば「本だけを読む」ということが苦手になっている。何か目的がある場合は良い。調べ物をするとか。でもじっくりと本を読むことだけが苦手。何かの片手間で読むぐらいが一番読みやすい。電車で、外出先で、誰かを待ちながら、パスタが茹で上がるのを待つ間(左手で本を支え、右手で菜箸を持ち麺が固まらないように時々ほぐしつつ)私は本を読む。

 家で本を読むペースが遅いことが少しだけストレスだった。本を読まないと段々調子が悪くなってくるし、読みたい本もある。消化できる本の量を増やしたい。

 思いついたのでそれを実践してみることにした。つまり、バランスボードに乗りながら本を読むのだ。はじめこそ、バランスを崩して足を床につけることが多かったけれど、慣れればちょっとした時間本を読み続けられることがわかった。これはいい。からだにとっては電車に揺られバランスを取っているのと同じだろう。私はバランスボードに乗るついでに、本を読むことにした。