ポテト280円

 このあたしが今日一番おいしくポテトを食べた自信がある。

 素朴な芋の味。ケチャップが苦手だろうが、空腹の前には意味がない。

 時々、切実に食べたくなる。その欲望が生まれること自体、とても恵まれているということ、わかっている。あまりに溢れていて、ありふれていて、この状態は夢まぼろしなのではないか。当たり前じゃない。そんなこと、知っている。「知っているけれど、知らない」ということを知っている。

 旅をするのが好きだ。旅をするということは、A地点からB地点に体が移動するということ。手段はどうあれ、体が動くこと。この運動エネルギーを無視することはできない。

 動く。エネルギーを消費する。消費した分は補充する。

 旅をするときは、自分を痛めつけているかのように、食べる間時間が惜しい。食べない、食べない、お腹が鳴る、食べない、意識が朦朧としてくる、ようやく食べることを考え始める、でもお腹が空いてもまだ食べない。耐えきれなくなったときに、ようやく食べる。

 食べることをなあなあにしてとりあえず三食食べている私が、食べることを手にする時間。それが旅。これは間違っている。だって常日頃の生活を変えればいいのだから。

 今日はたくさん歩いたしたくさん動物を見た。たくさん写真を撮った。楽しかった。そして何も食べていなかった。出会ったポテト280円。高いとか安いとか美味しそうとか心底どうでも良かった。でも、どうでもいいと思いながらもちゃんと美味しかったよ。それに絶対忘れないだろう。この身に刻むように食べたい。願いながら旅をする。

 

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