糸を繋げ 〜散歩に行く vol.17〜

 ふて寝した翌日の気分は最悪だ。昨日やりたかったあらゆる物事が残存し、本来なら気分良く捌くはずだった「魚」たちは、鮮度が落ちつつある。私はこの状況を好まない。

 惚けたように午前中を過ごす。ゼノブレイド3のタイオンのサイドストーリーを進める。初めて登場した時に「超好みのキャラ来たで」と思った感想は柔らかく変質している。ゲームを進めるにつれ、どのキャラクターにも愛着を抱くものだ。先日まで操作キャラはランツにしていた。今はクラスの関係でタイオンを選んでいる。自分で操作した方がダメージを稼げる難しいクラスだから。上官としてタイオンを導くナミと、それを慕うタイオンの関係が、ある出来事、ゼノブレイド3の世界の仕組みによって逆転し、今度はタイオンがナミを未来へと導く話。その構成の転換だけで飯が美味い。

 ゲームを長く遊んでいると頭がぼんやりとしてくる。こういった状態も好まない、おそらくもう少しだけ長く遊べば峠を越して何も感じなくなるだろう。でも私は意識的に超えないようにしていた。何かを食べることと似ていた。食べ過ぎは胃に負担と、多少の罪悪感をもたらす。そして私には他にもやることがあった。峠を越さずともゲームを楽しむことはできる。

 少し外に出て風に当たることにした。ほうじ茶のパックを放り込み水を注いで蓋をしたタンブラーと、鍵、ヘッドフォン、スマートフォンだけ持ち、上着を羽織って外に出た。XGのPUPPET SHOWを聴き始める。

 糸。操り人形。この曲のメッセージとは別に、私はこの2つの事柄について歩きながら考える。

 私は自分のことを操り人形だと思う。自分で自分を操る人形。自分を操っている私を規定する外のあれやこれやについても考えなければならないが、今回は糸と操り人形についてだ。

 私の糸は絶えず細かく断線しているようなものだ。断線するきっかけは自分でもわからない。忙しさや疲労が残っていると切れる確率が上がる。なんてことない出来事で切れるわけだが、考え方を工夫したり経験学習していくことで確率は年々低くなってきている。でも、ゼロじゃない。糸の強度も上がっている。年々切れにくくなっている。でも、重ねて言うように、ゼロじゃない。

 切れにくくすることと、切れたときに速やかに繋ぎ直す技術を磨くことが必要だった。散歩もその技術の一つだ。何かを飲むことも日記を書くことも後天的に獲得した知恵だと思う。糸を繋がなければならない。でないと私は人形なので動くことができない。

 人形。何もないということ。私を突き動かす情念は弱い。「〜しなければならない」は私の糸になる。私は自分の嗜好を元にして、選びながらあるいは選ばされながら糸を組み込んでいく。嗜好はガソリンではない。篩だ。情念はコンパスだ。ガソリンは、一日に使うことのできる体力だ。私のコンパスの針はあてにならない。自分には、何もない。

 信号待ち。タンブラーのお茶を少し飲む。帰った後にやることの段取りを立てていく。まずは昼食。そのあとは少しだけゲームをして(自分で決めた時間に終わらせることで調子を戻していく)今日中に読みたい本を読み進める。あとは…、そのとき糸が繋がるだろう。手と足をとにかく動かせ。糸を繋げ。今のところ、そういうやり方が一番手っ取り早く安寧を得られる方法なのだ。