トラベラーズノート

 なぜ私に水泳を習わせたのかと聞いて「それは子どもの頃のあなたが食べるのが好きでこのままだととんでもないことになると思って、泳げばカロリーを消費できるでしょう」という答えが返ってきた、という記憶は私の幻想らしい。真相は確か「泳ぐことは体への負担が少なく、年老いてもできるスポーツだから」。

 偽りの記憶を拵えても違和感がないくらい、私は食べることが好きな人間だと思う。食事制限をするぐらいならその分運動して消費カロリーを増やすという思考の持ち主である。ただ、「おいしいものを食べたい」というグルメ志向な人間ではなく(むしろその逆で大概の食べ物はおいしいのだ、選り好みなんてできない)単純に食べることが好きなのであった。

 今まで食べてきて印象に残っている食べものやお店を記録したいな。そういう気持ちがふつふつと沸いてきた。今まで日記めいたものに書くことはあれど、リストにしたことはなかった。やってみようか。そこで引っ張り出したのが「トラベラーズノート」である。このノートを買ったのは(正確にはリフィルは捨ててしまったのでカバーのみ)随分と前のことである。少なくとも学生だった頃。その頃は今ほどノート術を確立できていなくて、自分がどういうペースでどんな内容をどのノートに書きたいのか、まったくわかっていなかった。色々なノートに手を出しては飽きて挫折するということを繰り返し(勿体ないことをした)トラベラーズノートも例にはもれず、手をつけてみたはいいものの、合わなくてそのまま引き出しの奥にしまい込んでしまったのだ。

 トラベラーズノートは複数のリフィルを組み合わせられるのが魅力なので、それではと「食べものリスト」と「買ったもの日記」(いつぐらいに買ってどれくらい使い続けられるのか把握したかったのだ)と、アナログだがアカウントを管理したかったので3冊のリフィルを買ってみた。今日からトラベラーズノート始動である。

 試しに、記憶している限りで私が感動した食べ物や好きな場所について書いてみる。食べものだと21個書けた。少ない気がする。そのうちカレーパンは2つだった。カレーも2つだった(カレーが好きなのだ)。

 トラベラーズノートには幸せを詰め込むことにする(アカウントは幸せに関する事柄ではないけれど)。確かに、幸せを体現したノートは作ってこなかったから、悪くないアイデアかもしれない。