食われていく

 鮮やかな黄緑色の、丸っこい虫がアスファルトの上で死んでいて、小さな小さなアリの軍団に食われていく様を(というか体を分解されていく様を)、すっとしゃがみ込んで私は見下ろす。痛みも違和感もなくしゃがむことのできる私の健康的な膝、なんて素晴らしいのだろうと感動しつつ、私の目はきっと昏かっただろう。人間、頭の中に浮かぶイメージと表情が一致しないこともある。

 虫はとうに死んでいる(と思う)から何も感じることはないのかもしれないが、自分のからだがむしむしと食われていくのはどういう感覚なのだろう。その感覚を体験できる生命体はいるのだろうか。ああ、白魚(読み方は「シロウオ」)の踊り食いなんかはまさに。いやいや、それだけじゃない。生きながらにして捕食されるなんてことは、生態系において珍しいことでもなんでもない。そんなところまで考えて、私は立ち上がると散歩の続きを再開する。まだ朝九時になっていなかったと思う。