リスのように

 おととい、あまりに空腹で、だけどカロリーが高いものは食べたくないという願望を折衷する案として私が採用したのは、個包装のレーズンクッキーを買うことで、二袋(計四枚)食べて、残りはリュックの底に仕舞ったことを今の今まで忘れていた。何故忘れられていたかって、それはもちろん見えないからだ。

 このまま腐らせてはたまらないと、私はがさごそとリュックを漁りレーズンクッキーを取り出した。と、併せてコーヒーを飲む時に入れるシュガーのストックも買っていたことに気づく。こちらもすっかり忘れていた。お金を払ったのは過去の私なのだけど、買ったことすら遠い記憶の彼方に運ばれてしまったので(おとといのことなのに)なんだかタダでクッキーもシュガーも手に入れてしまった気がして気分がいい。おすすめ。お得感がある。

 リスだったかハムスターだったか、えさ(クルミやヒマワリのたね)を箪笥の隙間などに溜め込んだことを忘れてしまうなんて話を聞いたことがある(本当なのだろうか)。リスもハムスターも、自分の中で無き物になったえさが山のように積まれていたらもう一度嬉しいだろうなと思う。それと同じ。

 何かを腐らすのはまっぴらごめんだが(私の嫌いなことのひとつだ)普段使いのバッグであれば、こっそり菓子でも忍ばせておけば未来の私が喜ぶだろう。ただ、そうして意図的に仕込むものに限って存在を忘れられないのだった。無意識に忘れて未来の私を喜ばせられるよう、時々は菓子でも買って、それをちゃんと忘れたいものだ。