「私はあなたの好きなもの、嫌いなもの、行ったところ、これからの予定、会った人、会う人、とにかくあなたが話してくれたこと全部覚えているのに、今日私が不安だから病院に行くって言ったこと、覚えていないのね。それって何なのかしら」
「それは別に愛の欠落じゃないよ、ただの《指向性》の問題」
「そうね、そうなんでしょうね。でも、私は覚えているのにあなたは覚えていないというのは、なんというか、不平等な気がしてしまうのよね」
みたいなことが、あったような、なかったような。
私ができるからといって相手に同じことを求めるのは酷なのだということを、考えている。私は燃える葦のようであり、周囲は見渡す限り荒地が広がっている。
でも、今それを改めて考えているのは、すなわち直接的に「求められたこと」がないからなのよね、と思い至り、本当に楽しく生きてきたな私、という結論に落ち着いた。