夜行

 散歩。上着を一枚羽織り、前チャックを首元まで上げて、両手をポケットに入れて歩く夜の道が好き。回復傾向にあるので問題はない。日々更新し続けている「落ち込みたいプレイリスト」を引っ張り出しシャッフル再生をする。本当に落ち込んでいるときは聴かないであろうプレイリストだ。街灯、車のヘッドライト、コンビニの明かり、信号機、様々な色と音が溶けあい、いい感じである。そこには自分の好きな曲しかないので安心安全だ。

 マンションの裏を通る道を歩く。自転車置き場を上から下に通るパイプ(雨水を流すものだろう)の末端が白猫の死体に見えて(しかもありえない角度に曲がった死体)いよいよ自分は終わりか、と思った。いたって普通のパイプだった。普段から、路上で見慣れないものは大概何かの死体だと思って生きているから、普段通りと言えば普段通りなのだが。

 人気のない夜の道を歩くとき、あまりにまっさらで清々しいので、「ここで倒れてやろうかな」という気持ちが湧いてくるのもいつものこと。最近はそれに追加で、でんぐり返ししてやろうかな、と思っている。舞台『放浪記』の森光子のように。

 体育が得意だった私がいちばん苦手としたのは器械体操で、ハンドスプリングできなかったな、側転は得意なんだけど、なんて回想に耽る。そういや「器械」って何だろうと思って、家に帰ってから調べた。道具という意味らしい。そりゃそうだ。飛び箱は道具。