信号待ちにて

 神社の角にある信号で、赤信号が青に変わるのを待つ。

 この信号は少し複雑で、車道の信号は青なのに歩行者用の信号は赤のままだったりする。法則性がよくわからない。

 私が進みたい道に交わる別の道、そちらの歩行者用信号も赤なので自転車に跨った若い男が一人止まって何をすることもなくぼうっとしている。

 交通量は少ない。事実、信号待ちの男の脇を自転車に乗ったおじさんがノンストップで横断していく。赤信号を律儀に守る者同士(別にそれは褒められたことではないのだが)私は若い男に一方的なシンパシーを抱き始めている。よくもまあ、交通ルールを守っていますね(でもそれって結局私の自己愛なのでは、とか考えてしまうから駄目なのだ)。

 と、男は徐に煙草を取り出すと口にくわえライターで火を点ける。

 その瞬間の美しさと言ったら。束の間私は見惚れしまうのだった。右手でライターを、左手は風よけに添えて。あの決まりきった形式に美は宿るのかもしれない。

 男の方の信号が青になった。煙草をくわえたまま、男は力強くペダルを踏みこんで、あっという間に夜の闇に消えてしまった。私の方の信号は赤のままである。