春なので花を愛でに行く。
でも、1時間もしない間にその場をあとにしてしまった。暑かったというのもあるのだけれど、それらしく整えられた空間にあまり惹かれないのかもしれなかった。ぐるっと一周して次の目的地へ向かう。それでも至る所に植えられた花々はとても綺麗だった。たくさんの人々で賑わうあの場所は他と比べて幸福量が多そうだった。その日の私は幾許か疲れていて、しかし花々は綺麗で、それで差引ゼロ、いや私個人の幸福量はやや微増か。桜の花びらがはらはらと散る一本道。
ゆるゆると電車旅を続ける。日の光が燦燦と降り注ぐ、のどかな風景。山というか丘というか、それらのあいだを縫うように電車は走る。青々しい木々の中にちらりと野桜の桃花色が見える。私は嬉しくなり、自然と顔がほころぶ。こちらの方がずっと私の好みに合う気がした。
そして海へ。
私のものではない誰かのレジャーシートとクーラーボックス。
私のものではない誰かの長靴。
私ではない誰かが積み上げた石の塔。
私が見た海。
私は飲めないコカ・コーラ。
人がいないのをいいことに、足元にいくらでもある石を手にとってはブンと海の方へ投擲する。ぼしゃんぼしゃんと波に吸い込まれる石。石は投げるにしては小さく軽く、力が空振りする。うまく投げることができずもどかしい。気が済むまで石を投げると、疲れたのでリュックからピーナツフランスを取り出してもそもそと食べた。ピーナツパン、大好き。30分くらいぼうっとしていただろうか。帰らなければならないと、重たい腰をあげる。潮の匂い。ともすれば有機的な、何かが腐る匂い。
これにて今年の春の旅はおしまいだ。まだまだ行ってみたいところはたくさんあって、その為にはとりあえず一日一日を生きること。自棄にならないこと。