ジョグ vol.6

 思考が途切れることの無いように、長く長く走りたいという欲求が時々沸いてくるものだ。その欲求に従い、いつもより1㎞だけ長く走る。本当はもっと長く走るべきだが、夜は遅い、今は昼間に走りたい気分ではない。

 とはいえ、明確に何か考え事をしながら走るわけでもない。むしろ何も考えていないという状態。だから「思考が途切れることの無いように」というのは、多分誤った表現で、正しくは「何も考えない、何も見ない状態を作りたいがために」私は走ると言えよう。

 赤信号なので止まる。粉を溶かして作った手製のスポドリは薄い。口内に溜まった唾液をスポドリで流し込み、私は咳き込む。それは長距離の味。誰もいない、車もいない夜の道。怪しげに浮かぶ赤信号の光を前に特に考えることもないけれど、行き交う自動車の流れが途切れる瞬間の道路が好きだなあと思ったりする。それは夜限定の良さでヘッドライトの潮流が途絶えたときの静寂がいい。青信号になったので再び走り始める。日常のワンシーン。

 徐々に速度を落としクールダウンとしてとぼとぼと歩くこの時間が、走ることにおいては一番好きな時間かもしれなくて、火照ったからだが冷えていき、反比例して寒さを肌で感じる感覚が戻ってくる。時間が経つにつれ明晰になっていく思考。考えること、見ることを再び取り戻していく。冬のジョグとはそういうもの。毎日これをやるのは無理だなあ、と思って、今のところ、私は毎日は走っていない。