保てない夜に

 「よろしくお願いしますー!」

 チャットの返信を見たとき、確かに私はドキリとして「これは「恋」とやらかしら?」と思って即座に考えをうち消した。どちらかというと、宝石を愛でる感覚に近いのかもしれない。どうしてそう思うかって、私はこの一瞬を永遠にしたくはないから。恋って所有したいものと思ってるのだけど、違う?

 

 「よろしくお願いします」の語尾は伸ばさない。

 語尾を伸ばしたうえで「!」はつけない。

 ツッコミを入れてしまう自分がいて、とりあえず「了解しました。」と打つ。ポイントは句点。無表情の句点。

 

 信じるものがない。いいえ。信じなければ私は生きていけるはずがない。青信号で渡っても車に轢かれないこと。言葉で以て私の言いたいことが相手に伝わるだろうこと。スイッチをパチリと押せば電球が灯ること。傘も差さず雨が降る中歩けば濡れること。全部信じている。

 恋愛とは、人間を信じる行為の一つだと思うのだけれど、今のところここまで生きてきて、恋愛を通して人間を信じたことがない気がしていて、そのことについてずっと考えている。恋がしたい。ほんとうか? この世の中にはあまりにラブソングが存在していて、せっかく好きな音楽でもそれが愛を歌う曲なのだと気が付いた途端、私は醒めてしまう。

 恋がしたかった。でも同時に、恋とは別の方法で誰かと繋がれたら良かった。どちらでも良いかもしれないし、どちらでなくても仕方がなかった。この世には恋や、愛を歌う曲があまりに多く、花鳥風月についても歌ってくれよ(もちろんこの世はラブソングばかりというわけでもない)と、ずっとずっと思ってた。

 

 溺れたい、溺れたくない、気が狂いたい、いや、理性的であるべきだ。

 我慢してきたわけじゃない。頑張ってきたわけでもない。けれど、楽になりたいと思うときがあって、そういうときは早く寝るにかぎる。気を紛らわさなければ。

 

 楽になりたい。多分命が尽きるまでその日は来ない。