オレンジジュースの隣に座る

孤独とはジンのロックの味に似ていた。きりりと鋭く辛く、ボタニカル素材の匂いが香る味。そう思えば、孤独とは悪いことじゃないのではと思う。私はジンが好きなのだと思う。

 

 

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 ちょっとここいいですか、と先客に声をかけてから座る。ベンチにはオレンジジュースの紙パックが座っていた。

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 最近どうですか、と心の中で会話を試みる。

 ぼちぼちですね、と返ってくる。

 そうですか、それは何より、と私は返す。

 私オレンジジュース好きですよ、特にグラスの氷が溶けだした薄いオレンジジュースが、と半ば告白みたいなことを話す。

 あんた趣味変わってんなーとオレンジジュースが言う。

 それほどでも、と私が返す。

 

 じゃあそれは浮気と違いますか?

    オレンジジュースが言う。私の手にはスタバのアイスコーヒーとチョコレートチャンクスコーン。

 浮気じゃないと思いますけど、だってオレンジジュースだけでなくグレープジュースも好きだし、アイスコーヒーとクッキーの組み合わせも最高だし、みんな平等にそれぞれに好きなので、と私。

 それを人は浮気と言うんやで、とオレンジジュース。

 でも、好きなものたくさんあったほうが楽しくないですか人生、と私。

 確かになあ、まあ、オレンジジュースのことが好きで嬉しいわ、とオレンジジュース。

 

 つかの間の邂逅。オレンジジュースに別れを告げ、私は家路につく。