孤独とはジンのロックの味に似ていた。きりりと鋭く辛く、ボタニカル素材の匂いが香る味。そう思えば、孤独とは悪いことじゃないのではと思う。私はジンが好きなのだと思う。
*** *** ***
ちょっとここいいですか、と先客に声をかけてから座る。ベンチにはオレンジジュースの紙パックが座っていた。
最近どうですか、と心の中で会話を試みる。
ぼちぼちですね、と返ってくる。
そうですか、それは何より、と私は返す。
私オレンジジュース好きですよ、特にグラスの氷が溶けだした薄いオレンジジュースが、と半ば告白みたいなことを話す。
あんた趣味変わってんなーとオレンジジュースが言う。
それほどでも、と私が返す。
じゃあそれは浮気と違いますか?
オレンジジュースが言う。私の手にはスタバのアイスコーヒーとチョコレートチャンクスコーン。
浮気じゃないと思いますけど、だってオレンジジュースだけでなくグレープジュースも好きだし、アイスコーヒーとクッキーの組み合わせも最高だし、みんな平等にそれぞれに好きなので、と私。
それを人は浮気と言うんやで、とオレンジジュース。
でも、好きなものたくさんあったほうが楽しくないですか人生、と私。
確かになあ、まあ、オレンジジュースのことが好きで嬉しいわ、とオレンジジュース。
つかの間の邂逅。オレンジジュースに別れを告げ、私は家路につく。